リンパ管疾患情報ステーション

難治性リンパ管疾患に対するシロリムス療法とは?

はじめに
リンパ管疾患の中には、手術や硬化療法などの治療では、なかなか良くならない、完全に取りきることが難しい場合があります。生活に支障がない場合は、そのまま経過を見ることもありますが、出血や感染、見た目の問題など、様々な理由で、「少しでも症状を改善させたい」「小さくしたい」ことがほとんどです。これまでも、いろいろな内服治療が試されてきましたが、期待通りの効果を示すものはほとんどありませんでした。こうした中で、リンパ管疾患の原因は、細胞、血管に重要なPI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子の働きが活発になっているためであることが、わかってきました。
その遺伝子を抑える治療薬であるシロリムスが現在、大変注目されています。


シロリムスの想定される薬効と効果
シロリムス(ラパマイシン)とは、イースター島の土壌細菌から単離された、抗真菌作用を持つマクロライド化合物で、mTOR(エムトール)という蛋白を抑えることで、いろいろな疾患に有効です。免疫抑制剤として腎移植後に広く用いられているほか、再狭窄の防止の目的で冠動脈ステントのコーティング剤としても使われています。またリンパ脈管筋腫症(LAM)に対する薬剤としても認可されていますが、リンパ管疾患には承認されていません。
2009年より米国で臨床試験が開始され、リンパ管疾患を含む難治性脈管異常57例中47例 (82.5%)に有効性が認められたと報告されました。他にも多数の文献報告が相次ぎ、その治療効果に期待が寄せられています。これらの疾患はシロリムス投与によって、病変の縮小や、症状の改善が得られています。


副作用と治療後の経過
副作用は口内炎やニキビ、感染症などが多いですが、重篤で中止が必要となることはほとんどありません。小児にはまだ十分なデータはありませんが、海外の腎移植後のデータや国内のデータからは特別に危険な副作用は起こっていません。長期に使用することによる弊害は十分なデータがありませんが、成長障害などの報告はありません。
病変が縮小した後に、切除するという選択肢ができるかもしれませんし、出血や感染などの症状が落ち着くというのも期待できると思います。基本的には1年以上の長期間の投薬になることが予想されます。途中で止めることで再発する可能性もあります。


研究の進捗状況
リンパ管疾患研究班ではリンパ管疾患への適応拡大を目指し、2015年よりノーベルファーマ株式会社と提携し、2016年よりAMED臨床研究・治験推進研究事業「難治性リンパ管異常に対するシロリムス療法確立のための研究」班において、2017年より「難治性リンパ管疾患に対するNPC-12T(シロリムス)の有効性及び安全性を検討する多施設共同第V相医師主導治験」を実施しました。また「難治性血管・リンパ管疾患に対するシロリムスの安全性及び有効性を検討する多施設共同非盲検非対照試験(特定臨床研究、jRCTs031180290)」、「難治性の脈管腫瘍・脈管奇形に対するNPC-12T(顆粒剤・錠剤)の有効性及び安全性を検討する多施設共同第V相医師主導治験」を実施しています。これらの試験によって、薬事承認が下りれば、世界初となります。
(2021年9月1日)

リンパ管疾患情報ステーション