リンパ管腫症及びゴーハム病とは

リンパ管腫症・ゴーハム病

 リンパ管腫症(Lymphanghiomatosis、最近はGeneralized lymphatic anomalyと呼ばれる)は全身臓器にリンパ管組織が増殖する原因不明の希少性難治性疾患である。小児、若年者に多く発症し、症状は浸潤臓器により様々だが、乳び胸など胸部病変を合併すると予後不良である。骨溶解や乳び腹水、脾臓浸潤、リンパ浮腫、血液凝固異常も起こす。
 一方、ゴーハム病は1954年にGorhamとStautらが最初にまとめた“disappearing bone”を特徴する疾患で、骨が溶解し、血管やリンパ管組織に置換する疾患である。1983年にHeffezらが提唱した診断基準では、内臓への浸潤はないとされているが、乳び胸を伴う症例報告も多い。別々の疾患と考えられているにも関わらず、臨床的にはリンパ管腫症と明確に区別が出来ないことが問題である。
 脈管奇形の主要な国際分類であるISSVA(International Society of Studying Vascular Anomaly)分類が2014年にアップデートされ、これまでリンパ管奇形(Lymphatic malformation)と一括りであったのが、細かく分類された(図1)。最近、リンパ管疾患に関する研究は大きく進歩してきているが、この2疾患については研究が進んでおらず、病態解明だけでなく、診断や治療法の確立が急務である。



図1:2014年版ISSVA分類のリンパ管奇形(Lymphatic malformation)分類と従来からの呼称の比較

リンパ管腫症、ゴーハム病の特徴とその違い

 これまで国内では症例報告が散見されるのみで,疫学的なデータは存在しなかった.我々は平成24,25年度の厚生労働省難治性疾患克服研究事業の「リンパ管腫症の全国症例数把握及び診断・治療法の開発に関する研究班」で全国調査を行った結果,リンパ管腫症42例,ゴーハム病40例が登録され,それぞれの特徴の違いを検討した.
 ゴーハム病の骨病変は,骨皮質から溶解し,菲薄化,病的骨折のため疼痛を伴い,部位によっては側弯や脱臼による神経麻痺や周辺組織のリンパ浮腫やリンパ漏を起こす.単発性,連続性で,発見された時には既に進行していることが多く,骨端に至ると,関節を破壊することなく相対する隣接骨を侵す.他の溶骨性疾患と違い,骨新生や反応性骨形成等は認められない.一方,リンパ管腫症の約3割にも溶骨性病変を認めたが,髄質を中心に骨溶解するのが特徴で,ゴーハム病より病的骨折や側弯の頻度が少なく,骨溶解が皮質に至らず,無症候性の病変もあった.
 内蔵病変はリンパ管腫症が胸部病変(胸水,乳び胸,縦隔病変,心嚢水),腹部病変(腹水,脾臓病変),凝固系検査異常(血小板低下,FDP,D-dimer高値)が有意に多かった.2疾患とも,病変部位には不規則に拡張したD2-40陽性のリンパ管内皮細胞が増殖していたが,病理学的な特徴の違いは認めなかった.



図2:リンパ管腫(リンパ管奇形)、リンパ管腫症、ゴーハム病の違い

診断

 本疾患は非常に稀であり,出会う機会は少ないが,“原因不明の骨溶解”の症例では疑うべきである.我々は全国調査の結果から,リンパ管腫症とゴーハム病の特徴が重複し,明確に区別することが困難であったため,敢えて区別しない「リンパ管腫症・ゴーハム病診断基準」を作成した.血液検査,画像検査で感染症,悪性腫瘍,膠原病,代謝性疾患などを否定し,臨床症状,画像検査,病理診断で確定する.原発性骨腫瘍,転移性骨腫瘍,ランゲルハンス組織球症,化膿性骨髄炎,副甲状腺機能亢進症,繊維性骨異形成,先天性偽関節,特発性骨壊死,Sudeck骨萎縮,Hajdu-Cheney syndromeなどは鑑別すべき疾患である.



図3:リンパ管腫症・ゴーハム病の診断基準
*脈管奇形,リンパ管腫(リンパ奇形)の診断基準も参照すること。

外科的治療、放射線治療(主に骨病変)

 骨病変に対する外科的治療は病変部位,程度に応じて行う.一時的な進行停止もあるため,病状が安定していれば,対症療法を第一とするが,病状が進行性し,病的骨折を起こした場合などは,整復術や固定術,人工関節置換術などの整形外科的手術を必要とする.可能な限り,病巣を掻爬,切除することが望ましいが,正常組織との境界が不明瞭であったり,術後にリンパ漏などの合併症もしばし問題となる.また,原病そのものがコントロールできていないため再骨折を繰り返すことが多く,元の機能を取り戻すのは困難である.骨欠損部位は再建術を行うが,病勢の強い状態では,急速に骨溶解が進行したり,移植した骨片も溶解してしまうことが多く,外科的治療効果は限定的である.そのため,病勢が内科療法などでコントロール出来た状態で,病変部位を掻爬した後に人工骨などの生物学的材料で骨欠損を再建するのが望ましい.
 放射線照射は古くから試みられており,Heydらの報告によると,多施設で10例が30-45Gyの照射を受け,8例が進行停止を認め,過去のレビュー(38文献,44例)においても77.3%に効果があったとしていた.これらの報告のほとんどが成人例であったが,小児例では特に照射後の晩期合併症(骨の成長障害や二次がんなど)を考慮する必要があるため,重症例などに限るべきである。


薬物療法

 古くからビタミンD,副甲状腺ホルモン,アンドロゲン,カルシウム,副腎ステロイド,ビタミンB12などが試みられてきているが,効果は限定的である.
 インターフェロン(IFN)αは塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の産生抑制による抗血管新生作用があり,IFNα2b単剤あるいは他の治療との併用によって臨床症状が改善したという症例報告は多数あるが,発熱や倦怠感の他,うつ病,神経麻痺などの重篤な副作用に注意しなければならない.ビスフォスフォネート製剤は抗破骨,骨形成促進作用があり,骨粗鬆症や悪性腫瘍の骨転移,骨形成不全などの骨溶解過剰疾患に使用されるが,ゴーハム病でも放射線治療,IFNとの併用例の報告は多い.サリドマイドは腫瘍壊死因子(TNF)αやインターロイキン(IL)-12,bFGF阻害による抗血管新生作用を持ち,多発性骨髄腫に使用されるが,ゴーハム病にも有効であったという報告がある.プロプラノロールは循環器領域で使用されるβ受容体拮抗薬で,2009年に乳児血管腫(いちご状血管腫)に対し有効であることがわかった.血管収縮作用とVEGF,bFGFの産生抑制,血管内皮細胞のアポトーシス誘導作用を持つと考えられ,リンパ管腫症,ゴーハム病に対して有効であったとする報告がある).
 様々な分子標的治療薬が癌などで臨床的に使用されているが,ゴーハム病では血管増殖因子経路をターゲットとした治療報告がある.VEGFを抑制するベバシズマブや,血小板由来成長因子受容体(PDGFR)-βがゴーハム病患者の組織に発現し,血清中にPDGF-BBが上昇しているといわれるため,abl,c-kit,PDGFRのチロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブの報告もある.これらは重要な因子を阻害しているが,抑えられていない他の経路が活性化し,不応性となる可能性があると指摘されている.
 mTOR(mammallian Target Of Rapamycin)経路の阻害剤であるシロリムス(商品名:ラパリムス)は他のリンパ管疾患であるリンパ脈管筋腫症に対し2014年に国内で承認が下りたが,海外では様々な血管奇形に対する臨床試験が行われている.理論的には受容体やリガンドを阻害するのと比較して,mTOR阻害剤は完全にそのシグナルを阻害するため,効果が高い可能性がある.リンパ管腫症,ゴーハム病に対する治療報告はまだ少ないが23),海外では既に臨床試験が行われている.
 残念ながら,ここまでに挙げた薬剤のほとんどが,国内では保健適応外であり,容易に使用できない.使用の際には,臨床試験に参加するか,施設の倫理審査が必要である.



図4:ゴーハム病における骨溶解の予想される病態と治療薬の作用機序

注意

 実際の診断・治療については、患者さんの病状などによって、大きく違う場合があります。この資料はあくまでも現時点での情報(2015年1月)です。実際の対応は、主治医の先生に相談してください。



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