概要
リンパ管腫は大小様々の水風船のような「嚢胞」が集まって塊をつくっている病変です。嚢胞はリンパ管が異常に膨らんで袋状になったもので、中身はリンパ液が主体です。リンパ管腫はリンパ管という全身をめぐるリンパ液を流す管の形成異常で生じると考えられています。病変の部分は膨らんで見え、触れると柔らかく弾力性があることが多いです。
リンパ管腫では、嚢胞の大きさが1 mm以下のものから数cmに達するものまで様々なものが混在しています。大きく分けて、嚢胞部分の体積が大きいものを嚢胞性リンパ管腫、嚢胞は非常に小さく嚢胞以外の硬い部分が多いものを海綿状リンパ管腫と呼んでいます。
リンパ管腫が発生する部位は首・わきの下の辺りが最も多いですが、全身どこにでも発生する可能性があります。病変全体の大きさは数cmから数十cmのものまで様々です。
リンパ管腫の大多数はこどものときに発症します。体の成長と同じペースで大きくなることが多いと考えられていますが、自然消失することもあるし、逆に大きく膨らんでいくこともあります。悪性腫瘍ではありませんので、体の他の場所へ転移することはありません。
多くの場合、治療が有効で病変を縮小もしくは消失させることが出来ます。しかし、一部には、病変が大きく複雑に広がっていて、治療が困難な場合もあります。
リンパ管腫が発生する原因は現在のところ全く分かっていません。
(2010年3月4日)
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病変部は腫れて出っ張っており、見た目に問題になったり体を動かす上で邪魔になったりします。あごや首の深いところに出来た場合には気道を圧排して呼吸困難を生じたり、のどがつぶれて飲み込むのが困難となったりすることもあります。また普段は痛みを伴いませんが、経過中に突然内部に出血を起こして急激に大きく腫れたり、細菌が侵入して赤く腫れたりすることがあり、そういう場合にはひどく痛みます。このような「内出血」や「感染」などの影響で急に腫れた場合は治まるのに数週間かかることもあります。おなかの中に病変がある場合は見ても分からないことが多く、腹痛や発熱、嘔吐、排便困難などの症状が出て初めて病変に気付かれることが多いです。
(2010年3月4日)リンパ管腫の発症年齢は8割以上が小児期であるといわれています。特に大きな病変の場合には胎児期から病変が生じており、出生時から腫瘤が認められます。男女差はありません。遺伝性(親子・兄弟などの家族内での発生)は殆ど無いと考えられます。
発生部位で圧倒的に多いのは頚部周辺で、全体の半数程度を占めますが、全身至る所からの発生の報告があります。
多くの場合、お母さんやお父さんがお子さんの体の膨らんでいる部分に気付き、病院を受診します。診察時に視診や触診、発生部位などによってリンパ管腫かもしれないと疑われることもあります。しかし、それだけでは、他の似た病変と区別がつかないことが多く、通常はエコーやCT、MRIなどの画像検査が行われます。画像検査でリンパ管腫と診断がなされることが多いのですが、やはり他の疾患とも似ていて100%の診断が出来ないこともあります。画像検査で内部に液体を含んでいることが分かったときにその液がリンパ液かどうかを調べるために針を刺して液を吸引し、中の細胞や成分を顕微鏡や器械で検査することもあります(穿刺液細胞診、穿刺液生化学検査など)。内容がリンパ液であれば診断の補助になります。手術で病変を切除する場合には、切除された組織を顕微鏡で詳しく調べることが出来るのでリンパ管腫であれば確実に診断されます(病理組織診断)。その他に、リンパ液の流れを検査するリンパ管シンチグラフィや喉の通り具合を観察する内視鏡検査(喉頭ファイバーなど)や透視検査(嚥下造影、消化管造影など)も必要に応じて行われることがあります。
リンパ管腫を診断するための画像診断検査には、超音波、CT、MRIがあります。
超音波では黒い嚢胞性の塊として描出されます。内部には嚢胞と嚢胞の間に薄い隔壁を認めます。血液の流れを調べるカラードプラでは病変部への血流の増加は認めません。内出血している場合は、嚢胞の内部全体が白っぽく見えたり、血液成分が嚢胞内に沈殿している様にみえることがあります。
CTやMRIは、リンパ管腫の診断に用いるだけでなく、病変の広がりを知るのにも有用です。超音波では見えにくい部位にリンパ管腫が広がっていて、呼吸をするために大切な気管などを圧迫したり偏位させていることもあるからです。
CTでは、リンパ管腫は水によく似た黒さを示します。超音波で見えた隔壁はCTでは見えにくく全体として黒っぽく見えることもあります。内部には血流がないため、血管を描出するための造影剤というお薬を投与しても、リンパ管腫部の黒さは変わりません。
MRIは造影剤を使わずに、リンパ管腫の性状や周囲の血管や筋肉、臓器との関係をくっきりと見ることができます。
これらの画像診断検査はリンパ管腫を診断するためだけではなく、治療方針を決定したり経過・変化を見ていくために必要となります。
手術で切除した組織を薄く(数μm)切って顕微鏡で見ると、リンパ管腫では、線維性組織や脂肪組織に囲まれて、1層のリンパ管内皮に覆われたリンパ液を含んだ嚢胞が観察されます。画像検査では区別がつきにくい病変も病理組織検査を行うと病名が確定することが多いです。
(2010年3月4日)大きく「外科的切除」、「硬化療法」、「その他」に分けられます。
リンパ管腫は手術で完全に切除できれば完治するので、短期間で治療を完了出来ます。リンパ液を含んだ大小の嚢胞を全て取り除く手術が行われます。一般的には海綿状リンパ管腫に対しては硬化療法が効かないことが多く、切除術が有効です。
切除のマイナス面もあります。切除する際に切り込むキズは残ります。また手術で切除する際には周りの正常な部分も同時に切除せざるを得ないことが多く、機能的・美容的に問題を残すことがあります。特に顔や首の奥深くにある場合には様々な大切な神経や細かい筋肉を同時に切除することもあります。したがって、なるべくそういった問題が生じないように病変を部分的に切除することもよくあります。リンパ管腫の特徴としてリンパ液がどんどん集まってくることがあり、切除した端からリンパ液が止めどもなく流れ出てくることもあります。また傷口や漏れてくるリンパ液を伝って細菌が入ってしまい、ひどい感染を起こすことがあります。
リンパ管腫治療において外科的切除と並ぶ治療の柱です。薬剤を病変部に注射すると、リンパ液を含んでいる嚢胞が小さくなるために全体の大きさを徐々に小さくしていきます。理想的には嚢胞内のリンパ液を抜いてそこに薬剤を注入すると最も効果が出ると考えられています。
硬化剤としてはピシバニール(OK-432)、ブレオマイシン、無水エタノール、フィブリン、酢酸、高張食塩水、高濃度糖水など、様々な薬剤が用いられてきました。
日本では現在ピシバニールを用いるのが主流です。発熱、局所の強い炎症反応(発赤、腫脹、疼痛)が表れますが、後遺症を残すことなく多くの場合には最終的に病変部を縮小します。嚢胞性リンパ管腫には良く効くことが多いです。
ブレオマイシンはピシバニールが使われる以前には硬化剤としてよく使われました。リンパ管腫縮小に有効であることが認められていますが、量が多くなると肺線維症という合併症を起こす可能性があります。現在第一選択として用いている施設は我が国では少なくなってきています。ピシバニールと同じように嚢胞性のリンパ管腫に対して、より効果があります。
上に挙げたように硬化剤として用いる薬剤は多様ですが、どの薬剤も一般的に嚢胞性のリンパ管腫には有効ですが、海綿状リンパ管腫に対しては効果が十分ではありません。
そのほかにインターフェロン療法やステロイド療法が有効であったとの報告がありますが、一方、無効であったという報告もあります。国内外を通じて実際に治療を受けた患者さんの数が十分でないので、効果については一定の見解がありません。
(2010年3月2日)病変の部位や大きさによりますが、全体の7-8割の患者さんは、治療により病変が消えてしまうか、非常に小さくなって目立たなくなります。自然に小さくなっていったり、突然起こる感染や出血のあと小さくなっていくこともあります。一方、特に海綿状リンパ管腫の場合に多いですが、治療への反応が悪く、病変がなかなか小さくならないこともあります。
稀ですが、非常に重症な患者さんの中に、病変がのどの部分を囲んでいて気道が狭くなり十分に呼吸をすることが出来ないため、気管切開という息をするための孔を首にあける処置が必要になることもあります。また食事ものどを通すことが出来ず、食物を注入するための胃瘻という胃に通じる孔をお腹にあけることもあります。
また、経過の中で、リンパ管腫内の出血や感染を契機に病変が急激に増大し、一時的に、以前には見られなかった呼吸困難や経口摂取困難などが起こることもあります。
一言で「リンパ管腫」といっても同じ病気とは思えない程、様々な病変があり、経過にも違いがあります。
(2010年3月4日)