リンパ管疾患情報ステーション

リンパ管腫症・ゴーハム病とは?

リンパ管腫症は、異常な構造となったリンパ管組織が全身の様々な臓器で増える疾患です。症状は増えた臓器によって異なります。原因は分かっておらず、非常にまれな疾患です。リンパ管腫症の中に、カポジ型リンパ管腫症という新しい分類も出てきていますが、まだよくわかっていません。診断をする上でリンパ管腫症との明確な区別が難しい疾患の1つにゴーハム病があります。ゴーハム病は骨が溶けてなくなることを特徴としていますが、リンパ管腫症と同じように全身の臓器に病変が広がる場合があります。別の病気なの か、同じ病気なのか、未だ分かっていません。
リンパ管腫という疾患もあり、名前は似ていますが、リンパ管腫症とは別の病態として扱われています。しかし、似た症状を示すこともあり、時に両者の鑑別が難しいこともあります。またリンパ管拡張症(肺または腸管)という分類もありますが、これらは同じ病気で場所が違うだけなのか、別々の病気なのかも分かっていません。

(2017年10月1日)


原因

どうして病気が起こるのかは、未だ分かっていません。患者さんの手術や採血などで採取された病気の細胞を用いて、診断に結びつく指標を見つけたり、最先端の遺伝子検査の機械を使って、発症に関わる遺伝子を探したりして、原因をつきとめるための研究が進められています。

(2017年10月1日)

疫学

平成23年に行われた全国調査では、リンパ管腫症は小児、若年者に多く発症し(20歳までの発症が約80%)、ゴーハム病は全年齢から発症していましたが、性差はありませんでした。国内では合わせて約100人の患者さんがいらっしゃると推定されます。

(2017年10月1日)

症状

リンパ管病変がどの臓器に現れるかによって症状が異なります。
リンパ管腫症は、脳、脊髄以外の身体中の様々な臓器に、広範囲(1か所でサイズが大きい)または多発性(同時期に2か所以上の場所に現れる事もあります)に起こります。全国調査では85.7%の方に胸部の病変、69%の方に腹部の病変が認められました。胸部病変は、息切れ、咳、 喘鳴(ぜんめい) 、気道閉鎖、呼吸困難などを引き起こします。腹部に病変が現れると、腹部の張り、吐き気、食欲低下、息切れなどの症状が現れます。約40%の方に骨への病変が確認され、無症状の場合もありますが、中には病的骨折(何もしていないのに骨が折れること)や 側彎(そくわん) を起こす場合もあり、注意が必要です。リンパ管腫症の骨病変 は色々な場所の骨の 骨髄(こつずい) に、袋状の病変が多発するのが特徴です。
一方、ゴーハム病は骨の硬い表面から形が崩れるように溶けるのが特徴的です。一度溶けた場所から、連続性に進展し、関節を破壊することなく、隣接する骨へと広がります。骨が溶けた場所の 疼痛(とうつう)腫脹(しゅちょう) 、病的骨折、側彎、四肢短縮、脊椎神経の障害などを引き起こします。その周囲に リンパ浮腫(りんぱふしゅ)リンパ漏(りんぱろう) を起こすこともあります。肋骨や脊椎に骨溶解がある場合は、溶けた骨の周りから大量のリンパ液が漏れ、胸水などの胸部病変を起こし、重症化しやすいことがわかっています。
リンパ管腫症とゴーハム病を明確に区別する診断基準はまだありませんが、病変が出現する場所やその現れ方に特徴があることはわかってきました。両者をわける明確な診断基準を設けることができるのか、もしくは、これらは症状が違うけれど同じ原因から生じている1つの疾患なのか、現在研究が進められています。

(2017年10月1日)

合併
 症

◆胸部病変の場合
 ・胸水、乳糜胸(にゅうびきょう)
 ・心嚢水(しんのうすい)
 ・縦隔病変(じゅうかくびょうへん)
 ・肺病変
◆腹部病変の場合
 ・腹水
 ・脾臓病変(ひぞうびょうへん)
◆骨病変、骨溶解の場合
 ・病的骨折
 ・四肢短縮
 ・側彎(そくわん)
 ・脊椎(せきつい)神経の障害
◆皮膚、軟部組織病変の場合
 ・リンパ漏(りんぱろう)
 ・リンパ浮腫(りんぱふしゅ)
◆その他
 ・血液凝固異常
 ・熱
 ・内出血
 ・体の一部での感染症

(2017年10月1日)

診断

リンパ管病変が出現した臓器により症状が異なるため、症状がある程度進行してから受診し、病気が見つかるケースが多いです。原因不明の溶骨病変や乳糜胸(にゅうびきょう)がある場合、この疾患を疑う必要があります。非常にまれで、症状が人によって異なるため、診断をするのが難しい疾患です。そのため、臨床症状、画像所見、病理組織学的所見から総合的に診断します。現在用いられている診断基準は以下の通りです。前述のとおり、現時点では、リンパ管腫症とゴーハム病とを明確に鑑別するのは難しく、この2つを区別する診断基準はありません。発症年齢、病変を認めた臓器、骨の画像診断などを組み合わせて判断しています。


◆画像診断
 ・X線:溶骨病変、病的骨折などの判断ができます。
 ・MRI:内臓の病変の場所や大きさを判断する際、他の疾患と鑑別する際などに有効です。
 ・高分解能CT:特に肺や縦隔(じゅうかく)の病変の拡がりなどを細かく見ることなどに有効です。
◆病理組織診断
  骨病変などの組織から複雑な形に拡張し増殖したリンパ管を診断することにより、確定診断されます。
  また、カポジ型リンパ管腫症は、紡錘形(ぼうすいけい)の細胞が病変の一部に集まるという特徴があり
  ます。

(2017年10月1日)

治療
 法

残念ながら、疾患そのものへの確立された標準的治療はありません。現れた各病変に対しての治療(対症療法)が行われています。病変が一部分の場合は、外科的切除や硬化療法も行われます。しかし、全身性、びまん性の場合が多く、治療が難しいため、薬物療法や放射線治療を選択することになります。

◆骨病変に対する療法
 ・薬物療法
  骨が溶けるのを抑制するための治療です。インターフェロン(細胞の増殖や活動を抑える薬)、プロプ
  ラノロール 降圧薬 、ビスフォスフォネート(骨量を維持する薬)、ステロイド、
  イマチニブ(抗がん剤・分子標的薬)、低分子ヘパリン(抗凝固薬)などの薬剤が主に使用されてきま
  したが、有効性は明らかになっていません。また残念ながら、現時点で保険適応のある治療薬はありま
  せん。
 ・外科療法
  病巣の切除、硬化療法整形外科的手術、脳外科的手術などが行われます。
 ・放射線療法
  骨病変への照射により効果があったとする報告はありますが、小児の場合、合併症(骨の成長障害、二
  次がんなど)に注意する必要があります。
◆乳糜胸(にゅうびきょう)、心嚢水(しんのうすい)、腹水などに対する療法
 ・栄養療法
  低脂肪食、中鎖脂肪酸食 、絶食、 完全静脈栄養 などが挙げられます。
 ・薬物療法
  ステロイド、プロプラノロール、インターフェロンオクトレオチド などが使われています。今注目
  されている薬物療法にシロリムスなどの mTOR阻害剤 療法があります。軟部組織病変の縮小や胸水、
  腹水の改善に非常に高い有効性、安全性が認められていますが、まだ、世界中で薬事承認されていませ
  ん。現在、日本で治験準備が行われています。
  大量胸水や蛋白漏出性(たんぱくろうしゅつせい)胃腸症など、リンパ液の漏れが大量の場合は、低アル
   ブミン血症・低γグロブリン血症 、低栄養を起こすため、それらに対応する補充療法(タンパク質製剤
  の補充)を行うことがあります。
 ・外科療法
  穿刺(せんし)ドレナージ 、病巣の切除などが行われます。リンパ管からリンパ液の漏れを防ぐ手術
  としては、 胸膜癒着術胸管結紮術(けっさつじゅつ) 、硬化療法などがあります。
 ・放射線療法
  コントロール困難な乳糜胸や心嚢水の症例、胸壁・胸膜に 腫瘤性病変(しゅりゅうせいびょうへん)
  ある症例などに行うことがあります。照射部位によっては、肺や心臓に影響が出る可能性があるので、
  合併症に注意する必要があります。

(2017年10月1日)

予後

完治した症例は少なく、約60%の方は入院加療を、約90%の方は診療を継続されています。胸部病変(乳糜胸 (にゅうびきょう) や心嚢水 (しんのうすい) など)を合併すると、命に関わることがあり、予後があまりよくありません。

(2017年10月1日)
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