リンパ管疾患情報ステーション
主なリンパ管疾患や症候群として、以下のようなものが知られています。



カポジ型リンパ管腫症 kaposiform lymphangiomatosis(KLA)

従来、リンパ管腫症とされてきた症例の中に、病理組織検査をすると、 紡錘形 (ぼうすいけい)のリンパ管内皮細胞が集まる病変をもつ症例が確認されています。中等度の血小板減少(5-10万/ul程度)、貧血、凝固異常、胸水(血性)や肺浸潤などの症状が見られ、色々な臓器に病変が現れる疾患です。小児期に多く発生します。これらをカポジ型とする新しい概念が出てきていますが、未だ不明な点が多く、ISSVAでは分類不能とされています。

先天性/原発性リンパ浮腫(ふしゅ) congenital/primary lymphedema

リンパ管が正常に形成されず、機能不全により、手足、特に足を中心にむくみが慢性的に表れます。体の片側に起こることが多く、はれ、冷え、痛みを生じます。進行して、 蜂窩織炎 (ほうかしきえん)、色素沈着、皮膚の血流障害、 皮膚潰瘍 (ひふかいよう)、 リンパ漏 (りんぱろう)、 白癬症 (はくせんしょう)等の皮膚感染症、硬化、 象皮症 (ぞうひしょう)、 関節拘縮 (かんせつこうしゅく)による機能障害、リンパ管肉腫などの悪性腫瘍を発症することもあります。 容姿の問題があること、続発することにより、長期間苦労される患者さんの多い疾患です。

後天性リンパ浮腫(ふしゅ) acquired lymphedema

リンパ管の疾患のひとつですが、このホームページでは、主にがん治療の後などに後天的に生じる疾患は対象としておりませんので、説明は省略させて頂きます。

リンパ管拡張症 lymphangiectasia, lymphatic dilatation

何らかの原因により、リンパ管の明らかな拡張が見られ、リンパ液がリンパ管から漏れ出す疾患です。リンパ液と共にタンパク成分が流れ出し、低タンパク血症になります。全身に現れるむくみ、下痢、嘔吐、お腹のはりなどの症状が見られます。 脂肪がリンパ管内圧力を上昇させるため、食事は低脂肪・高タンパク食となります。タンパクの補充にはアルブミンや免疫グロブリンが、脂質の補充には中鎖脂肪酸(MCT)が使われます。
これらが腸管壁内のリンパ管で起こるものを「腸リンパ管拡張症」といい、小児慢性特定疾病の対象疾病です。腸管内リンパ液は脂肪を含み乳糜(にゅうび)と呼ばれます。この乳糜がお腹や胸にたまると、乳糜腹水、乳糜胸(にゅうびきょう)となります。


リンパ管形成不全

先天的にリンパ管が十分に成長せず、形態異常を生じている状態で、原因はよく分かっていません。乳糜胸(にゅうびきょう)、リンパ浮腫、リンパ管拡張症などあらゆるリンパ管奇形にともなう疾患を引き起こします。

嚢胞性(のうほうせい)ヒグローマ cystic hygroma

嚢胞性リンパ管腫のことを指します。リンパ管腫は、管状であるはずのリンパ管が異常に膨らんで袋状(嚢胞(のうほう))になったものが集まって塊を作っている病変で、嚢胞の中身はリンパ液ですが、嚢胞のサイズが大きなタイプを特に嚢胞性リンパ管腫と呼びます。リンパ管腫が腫瘍(しゅよう)だと考えられていた当時の分類名で、近年はリンパ管奇形と呼ばれるようになっています。

リンパ漏(ろう) lymphorrhea

リンパ管が何らかの理由で正常な状態を保てなくなり、リンパ液がリンパ管の外に漏れ出ることです。リンパ管腫では術後に切除断端からリンパ液が漏れてくることがあり、これもリンパ漏と呼ぶことが多いです。腹腔内(お腹の中で腸の外)に漏れてリンパ液が貯まると乳糜腹水(にゅうびふくすい)といいます。胸腔内(きょうくうない)(胸の中で肺の外)に漏れる場合には乳糜胸水となります。

乳糜腹水(にゅうびふくすい) chylous ascites

腸管内で始まる毛細リンパ管は、間質液と一緒に脂肪を取り込むため、リンパ液は乳白色をしており、他のリンパ液とは区別して、乳糜(にゅうび)と呼ばれます。乳糜がリンパ管から漏れて、横隔膜より下部の腹壁で囲まれた体内空間である腹腔(ふくくう)にたまります。吐き気、食欲低下、息切れなどの症状が現れます。

乳糜胸(にゅうびきょう) chylous pleural effusion

腸管内で始まる毛細リンパ管は、間質液と一緒に脂肪を取り込むため、リンパ液は乳白色をしており、他のリンパ液とは区別して、乳糜(にゅうび)と呼ばれます。リンパ管は、だんだんと集まって太くなり、最終的に2本にまとまりますが、その内の1本である胸管から、乳糜が漏れて、胸腔内(きょうくうない)にたまります。気道閉鎖、呼吸困難などを引き起こします。

クリッペル・トレノネー症候群 Klippel-Trenaunay syndrome

先天的に血管やリンパ管に発生異常が起こると、脈管奇形を発症します。脈管奇形には、毛細血管奇形、静脈奇形、動脈奇形、動静脈奇形、 動静脈瘻 (どうじょうみゃくろう)、リンパ管奇形がありますが、これらを複合して発症するのがこの症候群です。多くは5歳未満で発症し、性差はありません。難病指定されています。小児慢性特定疾病の対象疾病です(2018年4月より)。
ポートワインステインと呼ばれる赤いアザができたり、静脈やリンパ管が拡張、腫れて痛んだりします。手足の大きさや形に左右差が生じること、指の形が変形することもあります。成長に伴って症状が進行することが知られています。どの脈管に奇形が生じているかによって治療法が異なりますが、確立された治療法はなく、対症療法になります。


青色ゴム乳首(まり)様母斑症候群 blue rubber bleb nevus syndrome

皮膚や消化管、特に小腸に多く現れる静脈奇形です。皮膚病変は青色がかっており、ゴムまりの様な弾力性があります。リンパ管奇形を合併することもあります。全身に病変が現れる可能性があり、病変が増えることもあります。出血による貧血にも注意が必要です。小児慢性特定疾病の対象疾病です(2018年4月より)。

マフッチ症候群 Maffucci syndrome

中胚葉性組織 (ちゅうはいようせいそしき)の形成異常による 内軟骨種 (ないなんこつしゅ)です。多発性(同時期に2か所以上の場所に病変が現れます)で、静脈奇形を(まれにリンパ管奇形を)伴います。80%の患者さんが思春期頃までに発症します。骨の成長障害や変形、位置のずれが見られます。静脈が奇形により石灰化し、石のように硬く小さな静脈石(じょうみゃくせき)が現れることがあります。15-20%程度悪性化し、軟骨肉腫になることもありますが、小児期での悪性転化はあまり見られません。

PTEN過誤腫症候群(かごしゅしょうこうぐん) PTEN hamartoma tumor syndrome (PHTS)

がん抑制遺伝子であるPTEN遺伝子の変異によりPTENタンパクが減少するために起こるCowden症候群、Lhermitte-Duclos病、Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群、Proteus症候群をまとめて、PTEN過誤腫症候群と呼んでいます。リンパ管奇形を合併することもあります。Cowden症候群は、巨頭症、顔面や手足に表れる小さく硬い嚢胞、主に口の中現れる乳頭腫(にゅうとうしゅ)と呼ばれる白い、イボ状の突起が特徴です。消化管には、多数のポリープ(良性腫瘍)が見られます。乳房、甲状腺(こうじょうせん)、子宮内膜に良性腫瘍ないし悪性腫瘍を合併します。

スチュワート・トリーブス症候群 Stewart-Treves Syndrome (STS)

リンパ浮腫に伴って、血管もしくはリンパ管が悪性化して、管内面の細胞に腫瘍(しゅよう)を生じる症候群です。血管肉腫、脈管肉腫(みゃっかんにくしゅ)もしくは、リンパ管肉腫とも呼ばれます。リンパ浮腫が長期に及ぶと発生することがあります。 内出血のあとのような発疹が徐々に拡大していきますが、通常痛みは伴いません。大きくなってくると出血しやすくなるので、注意が必要です。病変の範囲によりますが、手術をして取り除くことが一般的です。

クローヴス症候群 CLOVES syndrome

毛細血管、静脈、リンパ管などの脈管奇形が混在していいます。全身に 脂肪腫 (しぼうしゅ)が現れ、程度は様々ですが、成長にあわせて大きくなります。手足の末梢、背骨や骨格の変形を伴います。
(2017年9月1日)

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